平成3年2月23日。
皇太子殿下は満31歳のお誕生日に、「立太子(りったいし)の礼」を挙げられた。この時に、皇后陛下はお祝いの御歌(みうた)を詠(よ)んでおられる。赤玉(あかだま)は緒(お)さへ光りて日嗣(ひつぎ)なる皇子(みこ)とし立たす春をことほぐ「赤玉は緒さへ光りて…」とあれば、日本の古典に興味を持つ者なら、古事記に出てくる次の歌謡を思い浮かべるだろう(日本書紀では少し語句が異なる)。赤玉は緒さへ光れど白玉(しらたま)の君が装(よそい)し貴(とうと)くありけり神話に出てくる海の神の娘、豊玉毘売(とよたまびめ)が天照大神の曾孫に当たるホホデミの命(みこと)を讚美した歌だ。我が子の立太子礼に際し、ごく普通に、古事記の中の相応しい歌謡から、「本歌取(ほんかど)り」の形で格調高く“祝歌(いわいうた)”をお詠みになられた。誰にでも出来る事ではあるまい。詞書(ことばが)きには「立太子礼奉祝」とあった。“お祝い申し上げる”という、ご自分は下位に立った表現だ。「立たす」とあるのも“お立ちになる”という敬意を込めた言い回し。血縁上は母と子であっても、「日嗣なる皇子」つまり“皇位を継承されるべき皇子”=皇太子という
公的なお立場を優先しているのだ。